緩和ケア

【信頼できる医療者と相談しよう】民間療法を信じて苦しんだ患者さんのお話

ジュン

最近はがん治療医や緩和ケア医がSNSなどを通じて患者さんがインチキ医療に騙されないようにと発信してくれていますが、その道を信じて妄信してしまう患者さんは未だにいらっしゃいます。

民間療法、自由診療の免疫療法(免疫チェックポイント阻害剤とは異なる)などは数え切れないほどあります。

今回はその一例をご紹介してみようと思います。

個人情報保護のため一部アレンジしてあります。

ケアマネージャーさんが助けを求めてきた

あるとき、通常の保険診療をどこの病院でも受けていない患者さんの相談が医療相談室を通して舞い込みました。

[chat face=”woman2″ name=”ケアマネージャー” align=”left” border=”red” bg=”red”]全身の痛みで動けなくなり寝たきりの患者さんがいます。
どこの病院でも診てもらってなくて、こちらの緩和ケアで診てもらうことでできませんか?[/chat]

患者さんは痛みが強く動けないということで介護保険を利用して自宅で療養していたようです。

話を聞くとがんを治すために食事療法を行っているということでした。

通常、通院していない患者さんや紹介状(診療情報提供書)のない患者さんは依頼されても受けることはほとんどありません。

この患者さんの場合は、一般の診療科ではなく緩和ケアの医師が受けてくれたので、そのときから診療が始まりました。

治りたい一心で民間療法を信じていた

患者さんが受けていたのは食事療法でした。

がんに良くないからと言われ、お肉、お魚などは一切食べない。
痛み止めであるオピオイドも身体に良くないから使ってはいけないと言われ、どんなに痛くても壁に頭を打ち付けて痛みを誤魔化し我慢し続けていたと聞きました。

ここだけの話を聞いて、医療者でなくても本当に治ると信じられますか?

端から見るとどんなに胡散臭い言葉でも、藁にもすがる患者さんは必死なんだと思いました。

どんなに周りの人がちゃんと医療を受けようと伝えても拒んでいたそうです。

とうとう動けなくなり、自宅で過ごしたい希望があった患者さんもこれでは自宅にはいられないと思われたようで、ケアマネージャーさんの勧めを受け入れました。

つらい症状を和らげる治療から信頼を築く

病院に来てもらう前に医師が往診で自宅に伺いました。
おそらくそこで受診してもいいと思えたのでしょう。

その後しばらく通院しながらつらい症状を和らげる治療を始めました。

強い痛みがあっても鎮痛薬を使わずに頭を壁に打ち付けながら我慢し続けていた患者さんは、オピオイドを使って痛みがなく過ごせるようになったことで、これまで信じ続けていた食事療法に時間を費やしてきたことを後悔する言葉を出し始めました。

痛みがなく過ごせることの幸せに気づかれたんでしょうね。

[chat face=”woman3″ name=”患者さん” align=”left” border=”red” bg=”red”]もっと早く痛み止めを使っておけば良かった[/chat]

痛みがなくなると寝たきりに近かった生活が、誰かの支えや杖、車椅子などを使えば生活範囲が広がってきました。

初めてお会いしたときと比べて笑顔も増えます。

病気や治療など、これまでの様々な思いも教えてくれるようになったりもしました。

この方は民間療法を信じる中でオピオイドは使ってはいけないという教えを忠実に守っていたのですが、きちんと医療を受けている患者さんの中にもオピオイドに強い抵抗を示したり、誤解から使いたがらない患者さんはたくさんいます。

そんな患者さんも誤解を解きながら、我慢し続けていた痛みがオピオイドでとても楽になると「もっと早く使っていれば良かった」と言われる方は多いです。

今までずっと悩み続けてきたつらい症状を和らげてくれた、これは信頼を築く第一歩になります。

「好きなものを食べられることっていいですね」

患者さんはがんに良くないと、お肉・魚はずっと食べずに避けていました。

その食事療法をやめて病院の診療を受ける中で、今まで信じてきたものが患者さんが望むものではなかったということに気がつきます。

[chat face=”woman3″ name=”患者さん” align=”left” border=”red” bg=”red”]お肉も魚も何でも、自分が食べたいものを食べるようにしました。
今までずっと信じてきたけど、好きなものを食べられるっていいですね!
元気も出てきました。[/chat]

食べたいものを制限なく食べられると、体力回復にも繋がっていきます。

ぐったりと活気のなかった患者さんは元気を取り戻して診察の日には、これからやりたいことなど自分の希望を話してくださるようになりました。

がん患者さんは治療の副作用や病状から食欲が落ちることはよくあります。

思うように食べられないと体力低下に繋がり、活動も低下します。

食べられるのに食事療法として食べてはいけない、ということも同じです。

この方の場合は、食べられるのに制限を課して食べなかった。
お肉や魚はタンパク質です。
人間の身体に必要な栄養素、筋肉を作る源を敢えて摂らずにいたということは、体力は必然的に落ちますよね。

好きなものを好きなときに好きなだけ食べられるようになったことをとても喜んでいました。

食べられること、つらい症状が抑えられることは長生きに繋がる

食べたいのに我慢する
痛みを我慢し続ける

これってただのストレスでしかありません。

そしてそれらは悪循環となります。

ストレスは免疫力を下げ、体力を無駄に消耗します。

病気を持ちつつも生きるということは、体力も免疫力も大切なものです。

これは一例ですがつらさを和らげることは体力を回復し、やりたいことが自分の力でできるようになるので、生活の質は格段と上がることは間違いありません。

もし自由診療の説明を聞きたいなら質問した方がいいこと

患者さんは治りたい一心で様々な情報を探し出します。

それが間違っているわけではありません。

でもインターネット上にはインチキ医療と言われる高額な効果の証明されていない治療を勧める情報があることも事実です。

インチキ医療と言われているもののほとんどは『効果があった』『がんが治った』『癌が消えた』など、患者さんの気持ちを捉える文言が並んでいます。

本当かどうか、どうしても説明を聞きに行きたいという患者さんもいるでしょう。

そんなときはまず信頼できる医療者、またはまずは一呼吸してご家族の意見も聞いてみましょう。

もしそれでも話を聞きに行きたいと思うなら、質問内容を考えてみましょう。
以下は一例です。

  • 全体の治った人と治らなかった人の割合を教えてください
  • ステージごとの治った人、治らなかった人の割合を教えてください
  • 治った人と治らなかった人の治療期間はどのくらいですか
  • この治療を受けた人のステージごとの生存期間はどのくらいですか

自由診療で根拠のない治療を勧めてくる病院は、『がんが治った』ということを強調してきます。

反対に治らなかった人はどのくらいいるのか、治った人と治らなかった人の割合はどうなのか、これを聞いてみることをお勧めします。

そしてステージごとの割合も聞いてみるといいでしょう。

多くの患者さんは標準治療がもうできないとなったときに、インチキ医療に縋ってしまう人です。
もちろん初期の段階からという人もいますが、その場合の経過も聞いておくと良いでしょう。

病院が示さないデータを必ず確認してみましょう。

そうすると『本当にその治療を受けて効果が得られるのか』を考えることができると思います。

まとめ

藁にも縋る思いのときは冷静さを欠いています。

ここまで書いたことが、冷静さを欠いた状態でその通りにできるとは思いません。

ご家族が強く勧めてくる場合もあるでしょう。

「とりあえず話を聞きに行ってみたい」という方は少なくないと思うので、せめて質問してみると良いことはどうか聞いてみてください。

大切な命の時間を大切にしていただくために、誰かのお役に立てることを願っています。

ABOUT ME
記事URLをコピーしました